財団について
理念
目指すこと

設立趣意
再生・細胞医療・遺伝子治療研究は、近年の医療技術の進展において重要な役割を果たしており、特に、遺伝子組換え技術や細胞培養技術を駆使して製造されるこれらの医薬品は、従来の低分子医薬品では治療が難しい疾患に対しても効果を示すことが期待されています。医療現場にこの革新的な治療法を提供するために、研究開発を基礎から実用化まで官民あわせて推進し、新しい治療法を開発して製品化につなげることが求められ、世界的にその動きが加速しています。
しかしながら、本分野においては、遺伝子・細胞治療のソース、人材育成、研究支援、規制、産学官連携、高い製造コスト、海外との技術開発競争、社会的透明性や受容性など固有の課題があり、特に、研究はアカデミアが主として開発されていること、国内ではアカデミアから企業に繋げる仕組みが不十分である状況にあります。
遺伝子・細胞治療のための同種(他家)の細胞ソースの一つとして、間葉系細胞があります。現在、国内で製造販売されている間葉系細胞原料には、骨髄や脂肪組織がありますが、これらは海外成人ドナーから採取された細胞を購入・輸入して国内で製造したものです。また採取には身体的な侵襲が伴います。海外からの細胞原料の輸入は、新型コロナ等の国際間の流通が途絶え、その国の事情で輸入が困難になる危険性もあります。近年、国内でドナーへの身体的侵襲なく採取でき、かつ備蓄可能な周産期付属物がバイオリソースとして注目されています。周産期付属物としてその利用が進む臍帯血や臍帯由来の細胞は、幼若で、成人をドナーとする骨髄や脂肪組織由来の細胞に比べて増殖能力が高いという特徴を有しているためです。
一方、遺伝子・細胞治療分野では、難治性疾患や希少疾患が対象であることが多く、スタートアップやアカデミアでの開発が中心となっており、実験室での探索研究から医薬品開発製造受託機関(Contract Development and Manufacturing Organization;CDMO)での商用製造に技術移管した際の製造変更に伴い、製造工程の一貫性や同等性が保たれていないことが、臨床での課題につながっています。開発初期からの有効性や安全性を担保するためには、小規模製造の段階からの製造管理や品質管理の手法が再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(Good Gene, Cellular, and Tissue-based Products Manufacturing Practice;GCTP)製造を見据えた製造プロセスを工夫し、CDMOと連携した工程開発を行い、本格製造までの工程の一貫性、同等性を保つことが重要です。特に、日本は遺伝子治療開発において独自の技術を有しているものの、国際比較における優位性は限定的であり、臨床応用という点では欧米に大きな遅れを取っています。そこで、国際的な競争力を発揮するための対策として、遺伝子治療基盤技術の開発に携わる研究者との技術協力体制の構築、遺伝子治療用製品の普及に向けて、コスト軽減を成功させたベクター製造技術の普及や生産性・安全性に関する製造と分析の基盤技術開発、当該分野に従事する人材育成の推進、高度な知識を有する専門家による支援体制が整ったトランスレーショナル・リサーチ(TR)推進の研究拠点の設立が望まれています。
患者様やご家族のもとに届ける持続可能なエコシステムを確立するには、再生・細胞医療・遺伝子治療研究開発を支援して実用化を推進し、地域社会や国際社会に対して教育や啓発活動を行い、本医療技術の普及を図る基盤を築く必要があります。
2017年に東大医科研病院内に設立した「東大医科研臍帯血・臍帯バンク」は、周産期付属物の一つである臍帯血や臍帯を系統的に資源化(バンキング)することを目的とし、これまで臨床用の細胞治療や創薬・製剤等のソースとして、また研究用細胞等のソースとして安定的に提供する体制を構築してまいりました。よりよい品質を維持するために2019年7月には品質管理システムとしてISO9001:2015を取得しました。さらに、製造販売までの医療実装を目指して、院内の細胞培養加工施設から、共同研究企業の協力を得て2021年10月に建設されたIMSUT-HLCセルプロセッシング施設へ製造を移行し、2023年3月、製造所として再生医療等製品製造業(品目:(他家)臍帯由来間葉系細胞)許可を取得し、企業治験も進められています。しかしながら、企業治験等が進んできた段階で、国立大学法人法の規定等の解釈において、製造販売用(商用利用)のために業として恒常的かつ安定的に提供することは、制約が大きく契約上困難と判断されております。また研究機関としては、研究を優先するとされており、製造販売開始後に原料供給が途切れれば最も影響を受けるのは患者さんです。これまで培ってきた、細胞原料収集体制と安全かつ高品質な細胞原料や細胞製品の提供実績をもとに、財団法人にバンク機能を移すことによって、こうした制約を解決し、早期にグローバルな医療実装を目指すとともに安定的に患者さんの医療に役立てたいと願っております。そのためには、周産期付属物採取の協力機関(産科・産婦人科)、再生医療等製品の製造販売業者、輸配送業者、規制当局、及び有識者等、臍帯血・臍帯を主体とする周産期付属物の資源循環の動静脈を司る産官学の三位一体となる各主体者と協働し、自立可能な共創的な細胞バンクの持続可能なモデル構築が求められます。
また、遺伝子治療研究を推進するためには、アカデミアや企業の研究開発に携わる研究者に対する教育プログラムの実施に加え、専門家からのコンサルティング支援が重要です。専門家による助言のもと、ベクター設計段階からエンドポイントを見据えた非臨床試験の立案、ベクター規格および製造工程を決定し、東京大学医科学研究所ベクター製造施設において高品質な治療ベクターの製造と依頼者への提供を行うことで、実用化に向けたベクター製造に係る障壁を解消するとともに、蓄積したノウハウを広く還元し、遺伝子治療分野の発展に貢献することができます。
そこで、東京大学医科学研究所は、本基盤整備と持続可能な運営を実施する主体として、「一般財団法人 医科学研究推進財団」を設立します。本財団は、医科学研究の推進を主軸とし、再生・細胞医療・遺伝子治療をその中心的な事業領域として位置づけます。これにより、臨床応用に資する革新的医療技術の社会実装を図るとともに、将来的には他の先端医科学領域に関する研究開発プロジェクトの展開も見据えた柔軟な体制を構築します。
本財団は、再生・細胞医療・遺伝子治療研究に必要な資源・知見を産業界や臨床現場へと実装する機能を担い、治療に要するあらゆる資源を、標準化された製造及び品質管理のもと、研究用または臨床用のソースとして持続的かつ安定的に医療機関、製薬企業、研究機関へ提供し、再生・細胞医療・遺伝子治療の本格的普及と発展を実現することを目的とします。
本分野の事業化に必要な要素技術を有する産官学の各主体者との協働をもとに、異分野融合、病院との連携、患者・市⺠参画、 社会・地域との共創、国際連携等の多様な連携を通じ、持続可能なエコシステムを構築し、医療現場に革新的な治療法を提供する基盤を整備することを目指します。同時に、この過程で多職種の人材育成も積極的に推進します。